Print Friendly, PDF & Email
聖明病院 院長 古川愛造

浜松医科大学臨床教授
医学博士・精神保健指定医
聖明病院 院長 古川愛造

我が国の依存症に対する取り組みはこの数年で飛躍的に前進しました。厚生労働省が取り組む総合支援事業の一環として、アルコール及びギャンブル依存症は久里浜医療センターを、薬物依存症は国立精神・神経医療研究センターをそれぞれ全国拠点とし、各都道府県に連携の中心となる地方の拠点医療機関を設置することで、総合的なネットワークが構築され、我が国の依存症医療が推進されることになりました。そのような中、聖明病院は、静岡県から指定された依存症治療拠点医療機関として位置付けられ、他の医療機関や行政機関、自助グループ等の連携において、圏域での中心的役割を担うこととなりました。聖明病院は今後も、その役割を十分認識したうえで、依存症に苦しむ患者様とそのご家族からの期待に沿えるよう、職員一丸となって努力してまいります。

我が国では、平成28年6月「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」が施行され、同年12月より「再犯の防止等の推進に関する法律」に基づき、再犯防止推進計画が施行されています。基本方針として、薬物依存症者が刑事処分の対象となったことに対する偏見や先入観を捨て、薬物依存症という心の病に苦しむ一人の地域生活者であることを改めて認識し、回復と社会復帰を支援することが明文化されています。現在静岡県では、保護観察所を中心にこの再犯防止事業がスタートしており、聖明病院からも専門スタッフが派遣されております。今後も聖明病院は、多方面との連携を持って地域における取り組みを支援してまいります。

我が国の依存症対策事業の充実とともに大きな転換期を迎えた依存症医療現場において、聖明病院の社会的使命は、全ての依存症に苦しむ患者様を分け隔てなく治療し、その回復と社会復帰を支援することであると考えています。聖明病院は全病床が依存症治療のためにあり、病気の種類と重症度によって治療方針をきめ細かく変えています。内容も開放病棟、閉鎖病棟それぞれの病棟で認知行動療法やグループワークを中心とした様々な依存症治療プログラムを行い、入院患者様を回復に導いています。また、依存症は患者様本人だけでなく、家族にも深刻なダメージを与える病気であり、本人同様に家族もサポートを要しています。聖明病院では毎月開かれる家族会を中心に、本人だけでなく家族の心のケアも行っております。

退院後の患者様は、疾患によって崩れてしまった生活のバランスを取り戻し、社会に復帰しなくてはなりません。これは一人では大変困難なことです。平成28年5月からオープンしたデイ・ケアでは、当院オリジナルのワークブックを用いた認知行動療法、当事者ミーティング、レクリエーションの三つを骨子としたデイケアプログラムによって、患者様の総合的な回復と社会復帰をサポートしてまいります。そして、退院後の独り暮らしに不安がある方には、当院のグループホーム「さくらの杜」も利用していただけます。「さくらの杜」では、一人一室の生活環境のもと、スタッフとともに、自分らしく自立した生活スタイルを確立することを目的としています。

また、聖明病院には、院内自助グループ「T.A.C.T.(タクト)」があります。昭和63(1988)年に「聖明断酒会」として設立されたもので、平成24(2012)年からは薬物等依存症の患者様も入会できるようになりました。同会では、「あしたばの仲間交歓会」という定例会を開催し、地域の断酒会やダルクへの紹介、有用な情報提供などを行い、患者様の社会復帰を促します。都市部には敵わない医療資源の乏しさをカバーしてくれるという意味でも、自助グループとの連携は重要です。協力してくれる「先行く仲間」たちは、自分たちの体験をもとに、現在依存症で苦しんでいる人々を回復へと導いてくれるため、とてもいい循環が生まれています。

当院が患者様皆様の回復とともに家族の回復や地域社会の安定化を通じて地域社会全体に貢献できることを願ってやみません。

医療法人 十全会 聖明病院
病院長 古川 愛造